妊婦さんとご家族へ伝えたい大切なこと

5. HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1

■どのような病気ですか?
・ヒトT細胞白血病ウイルスの感染によって、感染者(キャリア)の3~7%程度が、成人T細胞白血病(有効な治療法がまだみつかっていない白血病の一つ)を発症すると言われています。
・成人T細胞白血病の発症年齢については、40歳以上が多いとされています。
・白血病の他には、神経や眼の病気(脊髄症やぶどう膜炎)を発症することが稀にあります。どちらも発症率は1%未満とされています。
・HTLV-1感染は、母子感染(主に母乳)、血液(以前は輸血による感染が起こっていましたが、現在ではほぼありません)、性交渉(主に男性から女性)による経路があるとされています。
・感染経路の6割以上が母子感染(最多)、約2割が性交感染であると言われています。

■妊婦健診で行われるのはどのような検査ですか?
・血液検査の中で、HTLV-1感染のスクリーニング検査を行います。スクリーニング検査で陰性であれば感染していません(キャリアではありません)。しかしながら、感染していないのに(キャリアではないのに)、スクリーニング検査で陽性になってしまうこともあります。真の陽性ではないため、偽陽性と呼ばれます。

■もしも結果に異常があった場合は、どうなりますか?
・スクリーニング法で陽性の場合は、偽陽性の可能性があるためすぐにはキャリアと判断されず、ウェスタンブロット法またはラインブロット法という精密検査が必要になります。これらの検査は確認検査と呼ばれることもあります。 ・キャリアであることがわかっても妊娠中に追加する検査はありませんが、将来発症した場合についてのことは、診療経験のある内科医師から説明を受けておきましょう。 ・キャリアであっても妊婦健診、分娩は通常通りで問題ありません。

■出産後に気をつけることはありますか?
・お母さんがキャリアである場合、母乳を与えることによって赤ちゃんにウイルスを感染させてしまうリスクがあります。
・赤ちゃんの栄養方法について、母乳ではなく人工栄養が推奨されています。ただし、実際にはお母さんと医療関係者(保健師さんも含む)との相談によって、短期間の母乳や凍結母乳栄養が行われることもあります。
・母乳哺育でのHTLV-1の母子感染率は15~40%と高いですが、母乳ではなく人工栄養を行うことにより母子感染率を3~6%まで減少できるとされています。厳密には、HTLV-1の母子感染は母乳感染だけではないため(胎盤や産道を介した母子感染が考えられています)、母子感染をゼロにするためには人工栄養だけでは不完全と言わざるをえません。
・短期間母乳や凍結母乳については、栄養法という点でも母子感染予防という点でも、まだ確立された方法とは言えません。
・キャリアのお母さんは、何も症状がなくてもかかりつけの内科の医師と相談をして、他の成人の疾患予防も含めて健康維持を心がけて下さい。
・キャリアのお母さんからの赤ちゃんは、小児期に問題となることはほとんどありません。
・母子感染の有無を知りたい場合には子どもの血液検査が必要となりますので、担当の先生に相談して下さい(検査は2~3歳以降に行われます)。

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