新型コロナウイルス感染と妊娠情報

2020.4.22
出産で入院した妊婦全員に新型コロナウイルスPCR検査を行った結果(ニューヨークの病院の研究)

Sutton D, Fuchs K, D’Alton M, Goffman D.
Universal Screening for SARS-CoV-2 in Women admitted for Delivery.
N Engl J Med. 2020. doi: 10.1056/NEJMc2009316.

約15%の妊婦が新型コロナウイルスに感染していたが、その9割近くは無症候性の感染であった。

はじめに(要約作成チ-ムからのコメント)

 猛威をふるう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し、いかにその拡大を抑えるかが非常に重要な局面を迎えております。COVID-19に関する情報は、テレビやラジオ、インターネット等を介して、手軽に様々な情報を手に入れることが可能となりました。しかしその中には正しい情報もあれば、憶測や希望的観測に基づいて只々皆さんの不安を煽るだけのものも含まれています。

 今回ご紹介させていただく妊婦全症例に対するPCR検査に関する報告の紹介は、必ずしもその検査の実施を推奨するために紹介させて戴いているわけではありません。大規模なPCR検査実施には、まだ様々な問題を抱えています。低い感度による偽陰性(本当は感染しているのに検査は陰性になってしまうこと)や、1日の検査実施可能な件数の上限、そしてもし検査実施手技に問題があれば2次感染を引き起こしてしまう可能性などがあります。もちろん、感染者が増えた状況でこれら全てが適切にクリアされれば、検査数の大幅な増加はCOVID-19の感染制御に向けて大きな前進となる可能性は十分にあります。そのため、本稿のような現在までに報告されている科学的根拠を一つずつ慎重に吟味する必要があるのです。

 COVID-19に関する専門家はいません。私たちも日々更新される情報に目を通しつつ、不安な日々を過ごしていらっしゃる妊婦の皆さまやご家族の方に対し、いかに安心できる生活を送っていただけるかを考えております。今回の記事はそのような背景に目を向けつつ、世界で最も感染者が多い米国からの報告として、この論文紹介を読んでいただければ幸いです。


要約
  • 筆者らのニューヨーク市の病院では2020年3月13日に一人目のCOVID-19妊婦を診断した。
  • 分娩時には無症状だったにも関わらず産後に発症し、COVID-19と診断した複数例を経験し、鼻腔スワブによるPCR検査を出産のために入院する妊婦全員に行うこととした。
  • 2020年3月22日~4月4日までに、NY長老派教会アレン病院とコロンビア大学メディカルセンターで出産した215名の妊婦が対象。
  • 新型コロナウイルス検査が陽性となった33名(15.4%)のうち4名(1.9%)は、入院時に発熱もしくは他のCOVID-19に関する症状を呈していた。一方で29名(13.5%)は無症状であった。
  • 無症状患者のうち1割にあたる3名では、退院(退院中央値は2日)までに発熱を認めた。そのうちの1人はCOVID-19による発熱が考えられた。
  • 入院時に新型コロナウイルス検査陰性となっていたが、産後に症状が出現し3日後に検査陽性となった患者が一人いた。
  • 8人に1人以上は分娩のための入院時に無症状でも新型コロナウイルスが陽性となっていた。
  • 感染拡大地域における限られたデータでありパンデミックを起こしていない地域にはそのまま当てはまらないことや、PCR検査の偽陰性によって感染数が過小評価されている可能性には注意が十分必要である。
提言

 新型コロナウイルス感染が蔓延している状況下では、ユニバーサルスクリーニングを行うことで無症状のCOVID-19妊婦を診断でき、適切な隔離やベッドコントロール、新生児ケア、PPE(Personal Protective Equipment:個人防御服)装着などを行うことができる。

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