- 2020.4.14
新型コロナウイルスが垂直母子感染(胎内感染)を起こす可能性
Dong L, Tian J, He S, Zhu C, Wang J, Liu C, Yang J. Possible Vertical Transmission of SARS-CoV-2 From an Infected Mother to Her Newborn. JAMA. 2020. doi: 10.1001/jama.2020.4621.
新型コロナウイルスに感染した母親から生まれた子のPCR検査は陰性だったが、ウイルス抗体検査は高い値を示し、新型コロナウイルスは胎内感染を引き起こす可能性が示唆された。
要旨
- 新型コロナウイルス(正式名:SARS-CoV-2)は感染力が強く、感染様式も複数あると考えられている。
- 感染妊婦から胎児への感染リスクの可能性も示唆されていたがこれまでにはそのような報告はなく、これがCOVID-19に罹患した妊婦から生まれた子が胎内感染を引き起こした可能性を示唆する世界初の症例である。(2020年2月22日に中国武漢市のレンミン病院で出生)
症例 29歳 初産婦
【経過】
2020年1月28日(妊娠34週2日) | 37.9度の発熱と鼻閉があり呼吸困難感も伴っていた。 |
1月31日(妊娠34週5日) | 胸部CTにて両肺野抹消のすりガラス陰影 新型コロナウイルスPCR検査陽性 |
2月2日(妊娠35週0日) | レンミン病院入院。抗ウイルス薬、抗菌薬、ステロイド、酸素投与による治療開始。 |
2月22日(妊娠37週6日) | 陰圧室にて帝王切開分娩。母親はN95マスクを着用し、新生児との接触はしなかった。 出生時体重3120g、アプガースコア9/10点 新生児には特に異常を認めなかったが、隔離のために直ちにNICUに入った。 |
(出生2時間後) | 新型コロナウイルスのIgMとIgGがいずれも高値を示した。 同様にインターロイキン6や10などのサイトカインは上昇し、白血球数も上昇していた。そのため、こども病院へ転院となった。 |
その後、出生16日目 (3月9日)までに行った5回の鼻咽頭からの採取したぬぐい液のPCR検査では新型コロナウイルス感染の証拠は認めなかった。
また、14日目(3月7日)の検査でも、新型コロナウイルスのIgMとIgGはいずれも高値を示したままであった。25日目には退院した。
考察
- 新型コロナウイルス感染妊婦から生まれた子が、出生2時間の時点で高い抗体価とサイトカイン高値を認めた。
- IgMが高いことは、胎内感染を起こしていたことを示唆する。IgM抗体は胎盤を通過できないため母から移行したものではない。
- 出生2時間後の新生児の検査結果を見ると、白血球や肝酵素の上昇から胎内感染があったことが示唆される。
- 分娩時の感染も必ずしも否定できないが通常はIgMが上昇するのは感染契機から3~7日後である。
- IgGは胎盤通過性があるため、母体からの移行の可能性も残る。しかし、IgMの後にIgGが上昇することからは新生児自身の感染の根拠ともなる。
- 胎内感染の根拠をより強くするためには胎盤や羊水のPCR検査を含めたさらなる症例の蓄積が必要である。
※新型コロナウイルスIgMの感度は70.2%、特異度96.2%。新型コロナウイルスIgGの感度は96.1%、特異度は92.4%である。