新型コロナウイルス感染と妊娠情報

2020.4.14
中国にて新型コロナウイルス感染症と診断された妊婦38名の文献的考察

David A. Schwartz DA, MD, MS Hyg
Arch Pathol Lab Med. 2020 Mar 17. doi: 10.5858/arpa.2020-0901-SA. [Epub ahead of print]

中国にてこれまで報告されている新型コロナウイルス感染症と診断された妊婦38名では、母体死亡の報告は無く、産まれた子のPCR検査も全例で陰性であった

要約
  • 高い病原性を持つコロナウイルス感染症としてSARS-CoVによる重症急性呼吸器症候群(SARS)や、MERS-CoVによる中東呼吸器症候群(MERS)がある
  • SARSやMERS流行時には妊婦の重症化や母体死亡、流早産、および新生児感染や新生児死亡の報告があった
  • COVID-19ではこれまでの高病原性コロナウイルス感染流行時と違い、これまでのところ中国から報告された38例のCOVID-19と診断された妊婦では妊婦の死亡報告は無く、その母体から産まれた子のPCR検査も全て陰性であり、病原体検査として子宮内感染が証明される報告は無かった
  • これまでの報告のまとめ
    【武汉大学中南医院(武漢市)からの報告 9症例】
  • 妊娠第3三半期にCOVID-19が確認された9症例の報告
  • 年齢は26歳~40歳で、基礎疾患を持つ者はいなかった
  • 母体の症状は以下の通り 咳(1例),筋肉痛(3例),咽頭痛(2例),倦怠感(2例),消化器症状(1例),息切れ(1例)
  • 8例で胸部CTに肺炎像を認めた
  • 全妊婦で肺炎の重症化もしくは母体死亡は認めなかった
  • 妊娠中の合併症としてインフルエンザ感染(1例)、妊娠27週からの妊娠高血圧症(1例)を認めた
  • 36週未満の早産は認めなかった
  • 全症例で帝王切開による分娩が実施された
  • 9症例中6例に対して、羊水、母乳、臍帯血、および出生児の咽頭からPCR検査が実施され、その全てで陰性であった

  • 【华中科技大学同济医学院附属同济医院(武漢市)からの報告 3症例】
  • 妊娠第3三半期にCOVID-19が確認された3症例の報告
  • 年齢は30歳~34歳で、基礎疾患として甲状腺機能低下症を持つ者が1例いた
  • 全妊婦で肺炎の重症化もしくは母体死亡は認めなかった
  • 母体全例で胸部CTに肺炎像を認めた
  • 2例で妊娠中に母乳、腟粘膜、肛門周囲より採取した検体を用いてPCR検査が実施されたが、陰性であった
  • 妊娠中の合併症として妊娠高血圧症(1例)を認めた
  • 36週未満の分娩は認めなかった
  • 2例は帝王切開による分娩、1例は経腟分娩であった
  • 出生児に対して血液、臍帯血、尿、咽頭より採取した検体を用いてPCR検査が実施され、その全てで陰性であった(経腟分娩にて出生した児に対しては顔面のぬぐい液からPCR検査も実施されたが陰性であった)

  • 【湖北省妇幼保健院,华中科技大学同济医学院附属协和医院,武汉大学例民医院,天门市第一例民医院,Jingzhou Municipal Maternal and Child Health Hospital,复旦大学附属儿科医院からの報告 9症例】
  • COVID-19と診断された9例の妊婦から出生した10児(1例は双胎)の報告
  • 年齢は25歳~35歳で、基礎疾患を持つ者はいなかった
  • 発症時期は分娩前4日~分娩後6日で、37週未満での早産は母体9症例中5例いた(31週1例、33週1例、34週3例)
  • 母体全例で胸部CTに肺炎像を認めた
  • 9症例中8例で母体咽頭より採取されたPCR検査は陽性であったが、双胎の妊婦1例のみは陰性であった(この症例は症状や典型的なCTの肺炎像などからCOVID-19と診断された)
  • 全妊婦で肺炎の重症化もしくは母体死亡は認めなかった
  • 妊娠中の合併症として、胎児ジストレス(6例)、前期破水(3例)、羊水過少症(1例)、羊水過多症(1例)、臍帯異常(2例)、前置胎盤(1例)を認めた
  • 7例は帝王切開による分娩、2例は経腟分娩(内1例は双胎)であった
  • 出生児10症例中9例に対して咽頭より採取した検体を用いてPCR検査が実施され、その全てで陰性であった
  • 出生児10例中6例で多呼吸を認め、2例で発熱、1例で頻脈を認めた
  • 出生児のうち、消化管出血、哺乳不良、食物不耐性などの消化器症状を4例で認めた
  • 出生児7例で胸部レントゲン写真に異常を認めた(感染症4例,新生児呼吸窮迫症候群2例,気胸1例)
  • 妊娠34週で性器出血および胎児ジストレスのため帝王切開にて分娩し、分娩後3日目にCOVID-19と診断された症例においては、出生児で呼吸不全および多臓器不全により出生後9日目に死亡が確認された

  • 【苏州大学附属第二医院からの報告 1症例】
  • 妊娠30週でCOVID-19と診断された1例の報告
  • 年齢は28歳で、基礎疾患はなかった
  • 1週間持続する発熱のため受診したが、当初はPCR検査は陰性であった
  • 受診から2日後の胸部CTに肺炎像を認め、受診から4日後に再度実施したPCR検査で陽性が確認された
  • 妊娠31週に胎動減少および胎児心音異常のため帝王切開による分娩を実施した
  • 出生児のApgar scoreは9点(1分),10点(5分)であった
  • 胎盤,羊水,臍帯血,出生児の消化管内容液,および出生児の咽頭よりPCR検査が実施されたが、その全てで陰性であった
  • 出生後3日間出生児の咽頭および便から採取されたPCR検査も全て陰性で、出生後7日目および9日目に児咽頭から採取されたPCR検査も陰性である

  • 【武汉大学例民医院,潜江市中心医院からの報告 16症例】
  • COVID-19と診断された妊婦16例(COVID-19群)と正常妊娠45例(正常群)を比較検討した報告
  • 年齢はCOVID-19群で24歳~34歳、正常群で24歳~40歳だった
  • 分娩週数はCOVID-19群で35週5日~41週(中央値38.7週)、正常群で35週2日~41週(中央値37.9週)だった
  • COVID-19群も正常群も全て帝王切開での分娩を実施していた
  • COVID-19群の妊娠中の合併症および分娩時の異常は以下の通りであった
    妊娠糖尿病(3例),前期破水(3例),早産(3例),重症妊娠高血圧腎症(1例),B-Lynch法/compression suture(1例),胎児ジストレス(1例),羊水混濁(1),新生児仮死(1)
    これらの頻度は正常群と比較して有意差を認めなかった
  • COVID-19による肺炎が重症化したものは1例のみであったが、死亡例は無かった
  • 児の出生体重はCOVID-19群で2300g~3750g(中央値3139g)、正常群で2180g~4100g(中央値3260g)で有意差を認めなかった
  • 16症例中10例の出生児に対し咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査が実施され、全てで陰性が確認された
  • 出生児3例に痰培養検査等で証明された細菌性肺炎を認めたが、治療により改善を得た
  • これらの出生児は退院後もフォローアップを受けており、健康状態に問題を認めなかった


  • 考察
  • 今回のCOVID-19と診断された38症例の妊婦では肺炎の重症化による母体死亡の報告は無かった
  • 妊娠に伴う合併症(妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病,弛緩出血等)を認めるものもいたが、COVID-19に罹患した母体の生命を脅かす事態にはならなかった
  • またこれらの合併症がCOVID-19の子宮内感染を引き起こすリスクとはならない可能性が示唆された
  • 出生直後にPCR検査を実施された出生児30症例ではその全てで陰性を確認されており、従来のSARSやMERS同様に子宮内感染は起こさない可能性が示唆された
  • これまで報告されている新生児のCOVID-19感染では、直接的に子宮内感染が証明されているわけではなく、検査のタイミングが遅れているため、出生後の接触による後天的な感染を除外できないと考えられる
  • 今後COVID-19の病態解明のため、症例の蓄積により更なる妊婦および新生児のCOVID-19に関する情報を収集する必要がある
  • 同時に妊婦も参加可能なCOVID-19に対するワクチン開発が望まれる
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