新型コロナウイルス感染と妊娠情報

2020.8.4
SARS-CoV-2が胎盤を介して母から児に感染した症例報告

Vivanti J, et al, Transplacental transmission of SARS-CoV-2 infection Alexandre J. Nature Communications 11, 2020, Article number: 3572. https://doi.org/10.1038/s41467-020-17436-6

要約作成者より
妊婦が妊娠後期にSARS-CoV-2(新型コロナウィルス)に感染し、胎盤を介して児に感染が起こったと考えられる症例がフランスから報告されました。新型コロナウィルスの母子感染は出産後の接触による感染が主流と考えられていますが、妊娠中に胎盤を介して感染する可能性もあることを示す重要な報告です。


概要
23歳の経過順調だった初産婦が妊娠35週2日、2日前からの38.6度の発熱、激しい咳、痰を訴え大学病院に入院した。血液、鼻咽頭ぬぐい液、腟分泌液からSARS-CoV-2の遺伝子が検出された。入院3日後に胎児心拍異常のため緊急帝王切開により出産した。母体の呼吸器症状のため手術は全身麻酔下で行われた。破水前に採取した羊水からSARS-CoV-2の遺伝子が検出された。 新生児は35週5日で出生、体重2540g、気管挿管されNICUに入院した。挿管中に採取された血液と気管洗浄液からSARS-CoV-2の遺伝子が検出された。出生1時間後に採取された鼻咽頭と直腸ぬぐい液からもSARS-CoV-2の遺伝子が検出された。生後3日と18日の再検でも鼻咽頭と直腸スワブからSARS-CoV-2の遺伝子が検出された。(新生児はその間ずっと陰圧室に完全隔離されていた。)血液検査の異常は認められなかった。生後6時間で抜管され、完全人工乳栄養が開始された。

生後3日目、新生児は突然の易刺激性、哺乳力低下、筋緊張亢進、強直性発作を発症した。髄液検査ではSARS-CoV-2ウィルスは検出されなかった。発症後3日間かけて徐々に症状は改善したが、軽度の筋緊張低下と哺乳困難は継続した。生後11日目に実施したMRIでは両側の脳室周囲と皮質下の白質にグリオーシス(脳組織における一種の「傷跡」のこと)形成を認めた。新生児は特に治療を要さず、18日目に退院した。生後2か月で実施したフォローアップでは神経学的所見とMRI所見は改善がみられ、発育その他に異常はなかった。


考察
この症例では、母体、破水前の羊水、胎盤、帝王切開で出生した新生児からSARS-CoV-2に特異的な遺伝子を検出した点で意義がある。さらに胎児のウィルス量は出生直後の検体より生後3日目、18日目で上昇していたことも、ウィルスが検査の際に偶然混入したのではなく、新生児が感染を起こしたことを示唆する。


結論
SARS-CoV-2が妊娠後期に胎盤を介して母から児に感染し得ることを示した。経胎盤感染は新生児のウィルス血症と胎盤の炎症を起こすことがあり、新生児の脳血管の炎症から神経症状を起こす可能性もある。
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